DTMやミックス界隈でよく聞く言葉、「サイドチェイン」。
基本的には、トラック間の音の干渉を防ぐため、音を抑えたい方のトラックにコンプレッサーを挿入して自動的に音量を下げる(ダッキング)手法のことです。
ですがこのサイドチェイン、実はいくつかの手法があります。
用いる手法によってサイドチェインの結果が大きく異なることがあるので、適切な手法を選べると「なんか違うんだよなあ」という結果にならずに済みますよ。
今回はサイドチェインの3つのやり方を、レベル別に見ていきましょう!
レベル1:コンプレッサーによるダッキング
コンプレッサーを使用したサイドチェインは最もシンプルな手法といえます。
定番はローエンド(低域)でのダッキング処理。
例えば、キックに対してサブベースやシンセのPADをダッキングするパターンなどは有名です。
ですが、そもそもサイドチェインの目的とはなんでしょうか?
それは、音の明瞭感の向上です。
つまり、ここでサイドチェインをおこなう目的は、キックと帯域が重なる音が「同時に」なっていることによりキックの明瞭感が損なわれるからということですね。
そのため、キックに対して他の音をダッキングして音を減衰させる(物理的に音量を下げる)ことで、キックをよりクリアかつクリーンに聞かせることができるようになります。
基本のやり方
音量を下げたいトラックにコンプレッサーを挿し、サイドチェインにキックのトラックを指定すればOKです。
Look Ahead機能の活用
キックが入力されるよりも「前に」ダッキングを開始したい場合は、「Look Ahead」機能を活用しましょう。
「Look Ahead」機能はサイドチェインの入力信号が入力されるよりも前に入力信号を先取りしてサイドチェインを適用する機能で、多くのコンプレッサーに搭載されています。
これにより、通常のダッキングよりもキックにさらにスペースを与えることができますよ!
サイドチェインコンプレッサーの「Attack」や「Release」がキツすぎると、「いかにもかけてます」的な状態になってしまいがち。単純に明瞭感を出したいという時は、さりげなくかけるのがよいかもしれませんね。
レベル2:マルチバンドコンプによるダッキング
コンプレッサーによるダッキングは最も一般的ですが、全帯域に対して音が下がるので、下げたくない音まで下がってしまうというデメリットがあります。
例えば、シンセPADを使用すると音が広い帯域に分布しカーテン状になるため、リードシンセなどと音が重なって聴こえにくくなることがあります。
これをコンプレッサーで上記のようにダッキングしてしまうと、PADの音が全体的にダッキングされてしまい、PADが聴こえくなってしまうんですよね。
そんな時に便利なのが、マルチバンドコンプによる「帯域を絞った」サイドチェインです。
例えばMidの帯域を中心に広めのQ幅で-6dB程度下げれば、低域や超高域の部分はそのまま出力され、帯域が重なっていて聴こえにくい部分のみをダッキングすることができます。
通常のコンプレッサーによるダッキングと同様、マルチバンドコンプでLook Ahead機能を活用するのも効果的!
レベル3:Trackspacerによるダッキング
レベル2では、マルチバンドコンプでは帯域を絞ってダッキングすることができました。
ただ、ぶっちゃけ「設定がちょっとめんどくさい」というデメリットがあるのは否めません。
ここで登場するのが、サイドチェインに特化したマルチバンドコンプ「Trackspacer」です。
通常のマルチバンドコンプとの違いは、サイドチェインの入力信号を自動的に検知して、重なる帯域を自動的にダッキングしてくれるという手軽さ。
これ、ほんとに楽!
さらに、ダッキングを適用する帯域と深さも簡単に調整できます。
もちろん、通常のコンプ同様、AttackやReleaseも個別に設定可能ですしね。
とはいえいい事ずくめではなく、「Trackspacer」はCPU負荷が少々高いようです。非力なパソコンで複数台「Trackspacer」を立ち上げるとDAWごと落ちた経験もあるので、ご注意ください。
番外編:反転EQのススメ
さて、少々話はそれますが、やりたいことは「相互に干渉するトラックの被りを低減したい」のでしたよね。
その場合、コンプレッサーではなくEQで処理することもできます。
古典的な手法として、両方のトラックにEQを適用し、同じ帯域に対して片方はブーストして片方はカットする「Invert EQ(反転EQ)」というものがあります。
この反転EQは、「iZotope Neutron」などを使うと簡単にできますので、手持ちのEQにそのような機能があれば併せて試してみるとよいでしょう。
ちなみに、iZotopeの購入方法はこちらの記事の「RXの購入方法について」で解説しているので、よければ併せてご覧ください。
コンプレッサーとEQでは結果が異なるので、制作中のトラックに合う方を選ぶのがオススメですよ!
まとめ
今回は「サイドチェイン」について解説しました。
各手法の違いをざっくりまとめると以下の通りです。
- コンプ – 全帯域を手動でダッキング
- マルチバンドコンプ – 特定の帯域を手動でダッキング
- Trackspacer – 全帯域または特定の帯域を自動的にダッキング
- 反転EQ – 相互のトラックに反転させたEQを挿入して特定の帯域を抑制
それぞれ一長一短なので、場面によって使い分けるのがよいでしょう。
マルチバンドコンプでは帯域の絞り込みが可能で、Trackspacerではそれを半自動でおこなうことができるのが魅力です。
楽曲中で重なり合う様々なトラックにサイドチェインを適用することで、音の明瞭化が向上するだけでなく、トラック同士の相互の反応によってより「まとまり」が増すという効果もあります。
ぜひ積極的に活用していきましょう!
ちなみに、DTMは作業が多いので、途中であきらめる人も多いといわれています。
以下の記事では挫折の克服方法について解説しているので、悩んでいる方はぜひ併せて読んでみてください。
では、リュウでした!
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