ミックス界隈でよく聞く「ゲインステージング」、意外と意味を知らない方も多いのではないでしょうか?
ゲイン(Gain)と聞くと「音量」、つまり単に「ボリューム」のことだと思いミキサーのフェーダーを連想するかもしれません。
ですが、ここでいうゲインとはDAWでミキサーフェーダーに入る前の「入力の音量」、言い換えるとトラック自体の波形の大きさを指します。
では、フェーダーのボリュームとゲインにはどのような違いがあり、ゲインをコントロールできると楽曲にどのようなメリットがあるのでしょうか?
詳しく見ていきましょう!
ゲインとボリュームの違い
まずは、「ゲイン」と「ボリューム」の違いから。
DAWの画面上の話でいくと、ゲインはトラック上の「波形の大きさ」で、ボリュームは「ミキサーフェーダー」でコントロールしている音量です。
言い換えると、プラグインエフェクトを「通る前」の音と「通った後」の音の違いです。
チャンネルに対して、「ゲインはInput」で、「ボリュームはOutput」ということもできますね。
ゲイン:プラグインを「通る前」の音量(波形の大きさ、トラックに入力される音量)
ボリューム:プラグインを「通った後」の音量(ミキサーフェーダー、トラックから出力する音量)
ゲインとプリアンプの関係
さて、この「ゲイン」ですが、DAWの内部以外にも存在します。
オーディオインターフェイスにマイクやギターをつないで、入ってくる音も入力音なのでゲインです。
また、レコーディングの際に外部からの入力音(ゲイン)を調節する装置を、「プリアンプ」と呼びます。
例えば、ギターアンプでゲインを上げと音が歪みますが、それはアンプに搭載されているプリアンプでコントロールしているということですね。
逆にボーカルのレコーディングでは、コンデンサーマイクをプリアンプに接続しますが、音が歪まないようにゲインを調整するのが基本です。
この「プリアンプ」は「マイクプリ」とも呼ばれ、モノによって音の「質感・キャラクター」が変わるのがポイント。
DTMで音楽制作している人の中でも、中級者以上になるとオーディオインターフェイスに内蔵されているプリアンプではなく、ハードウェアで別途用意している人も少なくないでしょう。
機器によって「音が太く」なったり、「暖かみが増し」たりするので、オーディオインターフェイスの録り音に不満を感じう方は、ハードウェアを試してみるといいかもしれません。
プリアンプ(マイクプリ)などのハードウェアを購入するときは、実際にお店で試聴することをオススメします。有名なメーカー、高価な機種だからといって好みの音が出るとは限りません。
ゲインステージングについて
さて、ミックスにおいては、このゲインをコントロールする工程を「ゲインステージング」と呼びます。
エンジニアの中には「そんなもの知らん」という方もいらっしゃるのですが、ゲイン入力をそろえる作業をこのように呼称するようです。
「ゲインステージング」は、ミックス作業を始める際、最初におこなう作業の一つです。
理由は、プラグインを通る前の音量であるゲインを調整すると、2つのメリットが得られるためです。
1つは「エフェクトのかかり方を最適化できる」という点、もう1つは「作業効率を向上できる」という点です。
- エフェクト効果の最適化
エフェクトへの入力レベルを適正な大きさにすることで、音質そのものの向上が期待できる(特に76系コンプなどアナログシミュレート系のプラグインでは、「スイートスポット」、つまりそのプラグインが想定されている基準の値で入力することができるため) - 作業の効率化
常に同じ音量感で作業するため、楽曲ごとの音量差を毎回一定にして作業でき、結果が予想しやすくなる
「ゲインステージング」による変化は、個別のトラックだと分かりにくいのですが、全体で聴くとその効果ははっきりとわかるほどに変わります。
ゲインステージングの手順
では実際にゲインステージングを行なっていくにはどうすれば良いでしょうか?
まず必要なのは、「VUメーター」です。
お持ちでない方は、TBProAudioの「mvMeter 2」など無料で入手できるプラグインもあるので、入手しておくと良いでしょう。
VUメーターの使用
VUメーターを使用する際の注意点としては、どの値を「0dBVU」とするかを設定するパラメーター(「リファレンスレベル」や「ヘッドルーム」などの名称)があるので、値を「-18dBVU」にしておくようにしてください。
例えば「mvMeter 2」を見ると、デフォルトでこの値になっていることがわかりますね。
フェーダー・PANの位置設定
事前準備としてすべてのトラックのフェーダーを「0」に、PANをセンターに揃えておきます。
各トラックのゲイン調整
VUメーターの値が0dBVU付近になるようにトラックのゲイン(注:ボリュームフェーダーではなく)を調整していきます。
トラックで波形の大きな部分をループして確認すると、作業しやすいかもしれません。
ボーカルなどのダイナミクスが大きなトラックは、メーターが+-方向に大きく振れますが、おおよそ「0dBVU」付近で振れていればOKとします。
ピアノのコードバッキングなど、アタックが強く、その後減衰していくようなトラックの場合は、アタックのピークを「0dBVU」に合わせましょう。
VUメーターが使えない場合は「ノーマライズ」で対応
ドラムやパーカッションなど、あまりにもアタックが強い場合、「0dBVU」に合わせるとPeakメーターでクリップするトラックもあります。
そんなときは、VUメーターをそのまま使用することができないため、一旦トラックにノーマライズを適用し、ヘッドルームが「-6dB」になるようにするという手段もあるようです。
つまり、一番大きな音=ピークの最大値が「-6dB」になるようにするということですね。
ノーマライズをすると音質が劣化するという意見もありますので、実行する際は音質の変化に注意しましょう。
エレキギターでシミュレーターを使う場合
この場合は、アンプシミュレーターを通した後のゲインを調整するのがよいようです。
アンプシミュレーターを通した入力信号(ゲイン)は、アンプシミュレーター側のマスターボリュームでコントロールします。
MIDIトラックのゲインステージング方法
アンプシミュレーターと同じく、ソフトシンセなどプラグイン側のマスターボリュームで対処します。
ただし、波形を視覚的に見れた方が良いのでオーディオ化しておくのが望ましいでしょう。
まとめ
今回は「ゲインステージング」について解説しました。
ミックスでは、ゲインを適切に調整した後にも様々な作業があります。
プラグインが充実してくるとミックスの質も向上させやすいので、プラグインについてのセール記事もぜひ併せて読んでみてください。
以上です。
記事を読んだ後はモチベーションも高くなる傾向があります。
「ゲインステージング」をしっかり理解して、ミックスの質を向上させましょう!
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